2017年11月21日

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ママちゃんの後ろ姿だけを見て、自転車で必死に付いていった先は、人で溢れる商店街から少し脇道に入った『ビビッド』という雑貨屋さんでした。

たしかまだ40歳くらいの、ちょっとお洒落を楽しみたいウキウキなママちゃんは、

「荷物見てて」

小さな店に自分だけ入り、私は自転車に股がったまま、ママちゃんの自転車の見張り番。
外からその店を眺めておりました。

陶器で出来たなめらかな白馬の置物。
ゴールド色のキラキラしたアクセサリー。
小洒落たハンドバッグ。

コンパクトにまとまった綺麗な店内は欧風雑貨屋さんというイメージで、小学生にはその良さがまるで分からん。

何かを注文していたのか、ほんの5分程でママちゃんは嬉しそうに紙袋を手に出てくるのでした。

そんな思い出が数回あります。

高級なブランド品はないけれど、中に数点、上質なお洒落雑貨があるお店。
いつだか姉もそこで腕時計を買ってもらっていた気がします。

もう何年前だろう。
ビビッドは商店街を離れ、原田小学校の正門向かいに移転しました。
生活道路の、しかも黄色い帽子の小学生で賑やかな通り。
隣のスナックよりは浮いていないけれど、
そこは文房具屋さんか駄菓子屋さんだよね?
って場所でした。
ちょうど金町マツリカの裏に当たる場所で、
前を通る時は懐かしく眺めておりました。

透明ビニールから出さずにバッグを飾るあたり、
あーやっぱりなかなか売れないんだろうな。
あの手でうちも劣化を防ごうかな。
などと参考にしたもんです。

満開の桜と、道路が淡いピンクの絨毯と化した春、
子供たちがプールのバッグをぶら下げて通う夏、枯葉舞う秋、いつまでも雪がとけない冬。

昨日、
真冬の陽気のお休み。
今日やることを少しずつ来週にまわし、いや、通販にしてしまえ、
とかね、
ぬくぬくの布団の中でウヒヒッ! とやっていると、
南房総に引っ越したマツリカンからラインがきました。

『今日お休みだよね?』

『お休みです、まだ布団の中。こっちに出てきたの?』

『そうなの、夕方に寄りたいなぁ、と思って』

『じゃあ夕方までに人間ぽくなっとく!』

妖怪・寝癖よだれ、
じゃあ銀行まわりとかやってきちゃうか!
てな訳で起き出しました。

近くの銀行と、金町の郵便局と、東急ストア内にある百均と、ヨーカドー内にあるダイソー。
郵便局に行くにはビビッドの前を通るのですが、

ややっ!?

ビビッドの前、長机を2台出し、バッグの安売りを

…してる??

自転車が異様に速いマツリ子、確認しようと顔を向けたらもう郵便局

いいや、帰りに見てみよう。
にしても、寒くないのかな。
白髪の夫婦が
「…だなぁ」
「…よねぇ」
みたいにやってます。

東急ストアのキャンドゥで買い物をしていると、マツリカンから電話がきました。
彼女の『夕方』は16時だったようです。

「あと10分したら帰りまーす」

ビビッドの出店が頭をよぎり、

「あっ、15分かも

大人バッグの大きいサイズが欲しかったのです。

自転車を止めると、中に避難していた老夫婦が慌てて出てきてくれました。
バッグは1,100円コーナー、2,000円コーナー、2,500円コーナー?
いくつかありました。

1,100円ならお付き合いできます。

「大きいバッグが欲しいんです」
と言いながら、キリン柄の草色のバッグに目がいきました。
全然大きくない。
けど、いま持ってるバッグくらいは容量があります。

「これください、このままでいいんで」

そう言ったのですが、何やら奥様がもそもそやっているので、

「私、この裏にあったアジアン雑貨店をやっていた者なんです」

ああ!
とばかりにご主人が乗ってきます。

「いまは住宅街の中でお店やってるんです」

奥様も乗ってきます。

「やっぱり駅前の方が良かった?」

「いえ、たぶん売り上げ的にはそんなに変わりません。
強いて言えば、駅前は…」

口に手を添え、奥様に耳打ちしました。

「冷やかしが多かったです(ぼそっ 笑)」

「外からしか見たことないけど、あの品揃えは大変でしょう」
ってご主人。

「日本に問屋さんがあるんです。あと同業の先輩から珍しいの卸してもらったり」

と、ここで急いでいることを思い出し、

「お互い頑張りましょ!」

そう言って右手でガッツポーズを作ると、ご主人は「あはは」と笑いました。


1,100円。

今夜の夕飯に足りない食材を買えば消えてなくなる額。
利益なんて考えたら寒さの分だけマイナスになる。
自分たちの子供くらいのマツリ子に「頑張りましょ!」と言われたところで、そりゃ「あはは」しか出てこないや。

けど、
この寒さの中、外で売ってみよう、と頑張る老夫婦のその意気込みは
少しは報われたかな。
誰も振り向かない二人の会話に第三者が加わって、
少しだけ笑って、少しだけほっこりしてもらえたら、

今日もいい仕事できたな、って、
マツリ子本望であります!



誰もがきっとおのおの課せられた仕事がある。
ニュースになるような大きなことじゃなくても、
お母さん業、お父さん業、家庭の中のピエロ役、
何故かその公園のゴミ拾いをしてる人、悪ガキを叱るオヤジ(←やや化石)、
絶妙な焼き加減でレバーを焼く、サイダーバのパパは美味しいカレーを作る。

名もなき仕事はたくさん、
あるのですよ


※課せられた仕事=自分が自分に課した仕事。

何か胸に引っ掛かったモノがあれば、
それが何であろうと、それをやりとげ、そこだけ必死に守っていけば、
いいんだよ。

《マツリ子付け足しの巻》


Matulikomatulika33 at 17:16│コメント(2)

この記事へのコメント

1. Posted by ファンA   2017年11月22日 00:58
5 すごい!!本物なんだね。
このロケーションでお客さんがくるなんて。
マツリ子さんの魅力なんだろうけど。
そういえば亡くなった母が亀有で雑貨屋の店員だった。
そこへお客さんとして来た父と出会って結婚したんだって。
2. Posted by マツリカマツリ子   2017年11月22日 10:30
@ファンAさん
あれ!?
いいエピソードですね!
マツリカン男子部門はことごとくお幸せな様子。
『売り子さん✨』というより
『細腕繁盛記』みたいなキャラだからかな、私が(笑)
太腕だし(笑)

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